東京地方裁判所 昭和34年(ワ)10335号 判決 1966年5月28日
原告 西川合名会社
被告 新日本テレビ技術株式会社
被告 佐々木孝夫
被告 常盤利美
被告 尾崎貞蔵
被告 総武信用組合
被告 望月銀作
主文
一、原告に対し
(一) 被告新日本テレビ、同総武信用組合、同望月、同佐々木および同尾崎は各自四万七、三九四円およびこれに対する昭和三四年一〇月二〇日から完済までの年六分の割合による金員を
(二) 被告新日本テレビ、同総武信用組合、同望月、同佐々木および同常盤は各自一四五万四、〇三三円および内五四万七、七二三円に対する昭和三四年一〇月一六日から、内九〇万六三一〇円に対する同年九月六日から各完済までの年六分の割合による金員を
(三) 被告新日本テレビ、同総武信用組合、同望月、同佐々木、同常盤および同尾崎は各自一二八万四、三三七円およびこれに対する昭和三四年一〇月一〇日から完済までの年六分の割合による金員を
それぞれ支払わなければならない
二、原告のその余の請求を棄却する
三、訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの残余を原告の各負担とする。
四、この判決は原告勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。
事実
第一、当事者の申立
原告訴訟代理人は
一、原告に対し、
(一) 被告新日本テレビ、同総武信用組合、同望月、同佐々木および同尾崎は各自五〇万円およびこれに対する昭和三四年一〇月二〇日から完済までの年六分の割合による金員を、
(二) 被告新日本テレビ、同総武信用組同、同望月、同佐々木および同常盤は各自三六〇万円および内一〇〇万円に対する昭和三四年一〇月一六日から、内二六〇万円に対する同年九月六日から各完済までの年六分の割合による金員を、
(三) 被告新日本テレビ、同総武信用組合、同望月、同佐々木、同常盤および同尾崎は各自二〇〇万円およびこれに対する昭和三四年一〇月一〇日から完済までの年六分の割合による金員を、それぞれ支払わなければならない。
二、訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求めた被告ら訴訟代理人は、
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求めた。
第二、主張
一、原告訴訟代理人は請求の原因として次のとおり述べた。
(一) 被告新日本テレビは被告望月に対し次の約束手形各一通を振出した。
1金額 五〇万円
満期 昭和三四年五月九日
支払地 東京都中央区
支払場所 株式会社三菱銀行築地支店
振出地 東京都中央区
振出日 昭和三四年三月一六日
振出人 新日本テレビ技術株式会社
受取人 望月銀作
2金額 一〇〇万円
満期 昭和三四年八月四日
振出日 昭和三四年七月二四日
その他の記載事項(一)の手形と同じ
3金額 二六〇万円
満期 昭和三四年八月一四日
振出日 昭和三四年七月二四日
その他の記載事項(一)の手形と同じ。
4金額 二〇〇万円
満期 昭和三四年一〇月一〇日
振出日 昭和三四年八月二二日
その他の記載事項(一)の手形と同じ。
(二) 被告総武信用組合の築地支店長であった被告望月は、本件各手形の振出の日に、振出人のために同支店長名義でそれぞれ手形保証をした。
(三) 被告望月、同佐々木、同常盤および同尾崎は、それぞれ拒絶証書作成義務を免除して本件各手形を次のとおり裏書譲渡し、(もし、このうち本件2ないし4の各手形になされた被告望月の裏書が同被告自身によってなされたものでないとすれば、これは誰かが同被告の意を受けて記名捺印の代行をしたものである。)原告は本件各手形の所持人である。
1 本件1の手形は、被告望月から被告佐々木へ、同人から被告尾崎へ、同人から原告へ、それぞれ譲渡された。
2 本件2および3の手形は被告望月から被告佐々木へ、同人から被告常盤へ、同人から原告へそれぞれ譲渡された。
3 本件4の手形は、被告望月から被告佐々木へ、同人から被告常盤へ、同人から被告尾崎へ、同人から原告へそれぞれ譲渡された。
(四) 本件各手形の満期は、振出人、保証人、裏書人、所持人の全員の同意により次のとおり延期のため変更された。すなわち、
1 本件1の手形の満期は、昭和三四年七月七日、同年八月八日、同年九月一日、同年一〇月二〇日と順次変更され、その旨手形の記載が訂正された。
2 本件2の手形の満期は、昭和三四年一〇月一六日と変更され、その旨手形の記載が訂正された。
3 本件3の手形の満期は、昭和三四年九月六日と変更され、その旨手形の記載が訂正された。
(五) 原告は本件各手形をその満期(満期が変更された手形については変更後の最後の満期)に、支払場所に呈示したが支払を拒絶された。
(六) よって被告新日本テレビ、同総武信用組合、同望月および同佐々木に対し、本件1ないし4の各手形金を被告常盤に対し、本件2ないし4の各手形金を、被告尾崎に対し、本件1および4の各手形金を、およびこれらの被告に対し右それぞれの手形金に対する各手形の満期(満期が変更された手形については変更後の最後の満期)日から完済までの年六分の割合による法定の利息の支払を求める。
(七) 仮りに、被告総武信用組合の築地支店長であった前記望月に、本件各手形保証の権限がなかったとしても、同被告組合の右支店長には中小企業等協同組合法第四四条により商法第四二条、第三八条の表見支配人に関する規定が準用されるから、同被告組合は、これらの法条により右支店長がした本件各手形の保証について責を負うべきであり、本件各手形金を支払う義務がある。
二、被告新日本テレビ、同佐々木同常盤および同尾崎訴訟代理人は、答弁および抗弁として次のとおり述べた
(一) 請求の原因事実(但し被告佐々木、同常盤、同尾崎および同望月の各裏書は後記のとおり被告新日本テレビのための実質的な保証の趣旨でなされたものである。)を認める。
(二) 本件各手形が原告に譲渡された原因関係は次のとおりであって、被告新日本テレビは原告に対してこの事由を直接に対抗することができるものであり、また、被告佐々木、同常盤および同尾崎は被告新日本テレビが本件各手形によって原告から借金するに当り、同被告会社のために実質的な保証をする目的で本件各手形に裏書したものであって保証をしたものであるから、右被告らは主たる債務者である同被告会社の原告に対する抗弁事由を原告に対抗することができる。その抗弁事由は次のとおりである。<以下省略>。
理由
一、被告新日本テレビが本件各手形を振出し、被告総武信用組合の築地支店長であった被告望月がこれに同支店長の名義でそれぞれ手形保証をした事実、裏書の目的はともかくとして被告佐々木、同常盤および同尾崎が本件各手形にそれぞれ拒絶証書作成義務免除のうえ原告主張のとおり順次裏書し、被告望月も本件1の手形に右と同様に裏書した事実および原告が本件各手形を所持している事実についてはいずれも当事者間に争いがない。
被告望月は、本件2ないし4の自己の裏書を否認しているので考察するのに、<省略>本件2ないし4の手形の被告望月の裏書は同被告が自らし、または同被告の意思に基き署名の代行によってなされたものであっていずれもその手形行為が真正になされたものというべきである。<省略>
<省略>そして、右事実によると、本件各手形は原告主張のとおり受取人から原告に至るまで順次裏書により譲渡され、原告がその権利を取得したものであることが認められるから、被告新日本テレビは本件各手形の振出人として、また被告総武信用組合は、もし被告望月が支店長としてした手形保証について責を負うべき場合であれば手形保証人として、その余の被告らは、もし遡求の要件が充足されているならばそれぞれ裏書人として、ほかに原因関係の事由等特段の事由がない限り本件各手形により責を負わなければならない筋合である。
そこで、被告望月がした右支店長名義の手形保証について被告総武信用組合が責を負うべきであるかどうか、遡求要件の有無および被告らの原因関係に基き抗弁の当否について順次項を改めて検討する。
二、本件各手形の保証は、被告望月が被告総武信用組合の築地支店長としてその在職中にしたものであることについては当事者間に争いがない。
しかしながら、被告望月が被告総武信用組合の築地支店長として、同被告のために一般的に手形保証をする権限をもち、または個別的な手形保証の授権を得てその権限に基いて本件各手形の保証をしたものと認めるに足りる資料は何もないばかりか、却って成立に争いのない乙第一〇号証によれば銀行、相互銀行、信用金庫および信用組合等の金融機関では古くから経営上の秩序維持および事故防止の必要から一般に代表取締役、頭取または代表理事に限って手形保証の権限を認め支店長にはその権限を認めない取扱いが行われて来たことが認められるのであって、被告総武信用組合の築地支店長の場合にも金融機関の右のような一般の取扱いと同様に手形保証の権限がなかったものと推察されるのである。
しかし、信用組合については中小企業等協同組合法第四四条により商法第四二条の規定が準用されるから、被告望月がたとえ被告総武信用組合の参事ではなかったものとしても前記支店の支店長という名称の使用を許されていた以上は右各法条により裁判外の行為について被告総武組合の参事と同一の権限を有していたものと看做されるので、同被告組合は被告望月が築地支店長としてその在職中にした本件各手形の保証について責を負わなければならないことは多く論ずるまでもないことである。
この点について、同被告組合は、銀行はもとより信用組合等の金融機関において代表取締役、頭取または代表理事に限って手形保証の権限を認め支店長にその権限を認めないという取扱いはすでに商慣習となっているものであって一般に周知のところであるから、原告もその他の本件手形の関係者も右築地支店長であった被告望月に手形保証の権限がないことについて悪意であったと主張するのであるが、被告望月はともかくとして、その他の手形関係者ことに原告がこの点にいて悪意であったことを認めるのに充分な証拠はない。
尤も、前掲乙第一〇号証によると、金融の実情は、一般の取引者が銀行等の金融機関の支店長に手形保証の権限がないであろうと疑いをもつほどに、支店長の手形保証が一部の例外を除いて余り行われていなかったことが認められるのであるけれども、原告を含めた前記手形関係者(被告望月を除く)が銀行等の金融の実情に通じていたという特段の事情の認められない本件では金融機関の右のような慣行から、これらの者が右のような慣行を知っていたものと即断することができないうえ、原告は後述のように被告新日本テレビに対する貸金債権の担保として本件各手形を取得するに当り特に被告望月に支店長の保証を求めたのであって、支店長保証という点を特段に重視していたことが推知されるのであるから、このようないきさつからみても手形関係者のうち少くとも原告は被告望月に前記支店長として手形保証の権限があったものと考えて本件各手形を取得したものと解されるのである。
また本件各手形の保証は振出人たる被告新日本テレビのためになされたものであり、かつ、本件各手形の受取人は被告望月であるところからみれば手形保証がなされた相手方はあたかも受取人である被告望月であるかのように見え、また被告望月は被告総武信用組合の築地支店長として自己に手形保証の権限がないことを当然知っていたものとみなければならないから、外形上は商法第四二条第二項、該当の事由があるように見えないこともない。
しかしながら、本件各手形の振出、保証および裏書の原因関係は後述するとおりであって、被告らが本件各手形に保証をし、または裏書をしたのは被告新日本テレビの原告に対する後述の借金債務について被告らが各保証し、この保証債務を手形保証による債務または裏書人の償還義務という形で履行しようとしたためにほかならないのであり、本件各手形の受取人をいずれも被告望月とし、同被告から原告に至るまで被告らが順次裏書により本件各手形を譲渡した形をとつたのはこれらの者が裏書人として償還義務を負うための便宜上のものに過ぎないのであるから、本件各手形に保証したこのような目的に着目すれば、手形保証がなされた相手方は手形面上の受取人である被告望月ではなく、本件各手形が貸金債権の担保として交付されるべき相手方であることが当初から予定されていた原告であるというべきである。
したがって前述のように原告が悪意であったことを認める資料がなく、むしろ善意であったと解される本件では商法第四二条第二項該当の事由はないわけであり、被告総武信用組合の手形保証についての責任は否定できない。
三、次に遡求要件の存否について考察すると、本件1ないし3の各手形の満期が原告主張のとおり手形関係者の同意のもとに変更され、その旨手形の記載が訂正されたことは、原告と被告新日本テレビ、同佐々木、同常盤および同尾崎との間に争いがない。
被告総武信用組合および被告望月は右満期の変更および同被告らの変更についての同意の事実を争うので検討をするのに甲第一号証の一のイ、ロ、第二号証の一のイ、第三号証の一のイ、ロによれば、原告主張のとおりの満期の訂正の記載が認められ、これと前記のとおり一部の当事者に争いがないこととを併せて考察すると、本件1ないし3の手形について所持人、振出人等の手形関係者の間で原告主張のとおりの満期の変更およびその記載の訂正がなされた事実を認めることができる。
そして、この満期の変更について右被告らの同意があったかどうかについて更に攻究するのに、被告望月は本件各手形が被告新日本テレビの原告に対する借金債務の担保として原告に交付されるという予定のもとに本件各手形の保証および裏書をしたものあでることは前述のとおりであるし、なお、本件各手形の保証および右裏書の当時は、被告新日本テレビが被告総武信用組合の築地支店から融資を受けた債務などの多額の債務のため倒産寸前の状態にあり、右築地支店の助力のもとに原告から本件各手形等により資金を入手して危機を乗切ろうとしていたときであり、かつ、被告望月は被告総信武用組合の支店長として以前から被告新日本テレビに融資し、また同被告会社が原告から融資を受けるのについて助力したりしていたことが認められることは後述するとおりであるから、被告望月は被告新日本テレビの右のような経営状態を充分に認識しており、同被告会社が本件各手形により原告から借金をする場合にはその債務を期限内(弁済期間は本件各手形の変更前の満期をみても分るとおり、借用後または手形書替え後長くとも二ケ月間足らず、短いものは一〇日間位である。)に弁済することができないで、順次手形の書替えないしは満期の変更により弁済期を延長してゆくことも充分ありうることを予測し、同被告会社がこのような債務処理の必要な限度で本件各手形の満期を変更してゆくについて予めこれを容認し、同被告会社にこれを委せていたものと推認される。
したがって、被告望月が、本件各手形の保証および裏書をした当時に、本件1ないし3の手形の満期が後日どのように変更されるかについて具体的な事実を予測せず、また後日に至って前記のように満期が変更されたことを知らなかったとしても、右満期の変更は同被告の事前の同意に基くものというべきであり、被告総武信用組合も前述の表見責任の法理により前記支店長であった被告望月の同意に拘束されるわけである。
これを要するに、本件1ないし3手形の満期は手形関係者である被告ら全員の同意によりそれぞれ原告主張のとおり変更されたものというべきであるところ、成立に争いのない甲第一号証の一のハ、第二号証の一のロ、第三号証の一のハ、第四号証の一のロによれば、本件各手形はそれぞれ満期(満期が変更された手形については変更後の最後の満期)またはその翌日に支払場所に呈示されたが支払を拒絶された事実が認められる(この呈示および支払拒絶の点については被告総武信用組合および同望月以外の被告らはこれを認めている)から、本件各手形についてその遡求の要件が充足されていることは明らかである。
四、被告らの原因関係に基く抗弁について検討を進める。<省略>
<省略>本件各手形は被告新日本テレビが右のような事情により原告から融資を受けるための担保手形として或はすでに受けた融資の担保手形の書替手形として、初めからこれを原告に交付する目的のものに振出されたものであるが、前記保証の目的を達するため、前記支店長名義で手形保証をしたほか、被告望月および被告佐々木が全部の手形について、また被告常盤および被告尾崎が前述のように一部の手形について、それぞれ保証の目的で裏書をし、被告新日本テレビから原告に対して融資の担保として交付された。<省略>
<省略>しかして、<省略>被告新日本テレビは本件各手形により原告から次のとおり金銭を借受け、この金銭貸借について次のとおりの利息を支払ったことが認められる。
(一) 本件1の手形について<省略>
(二) 本件2の手形について<省略>
(三) 本件3の手形について<省略>
(四) 本件4の手形について<省略>
<省略>以上の事実が認められ<省略>
<省略>したがって、本件各手形の原因関係の債務は右各借金の残元本の範囲でしか存在しないわけであるから、本件各手形の振出人である被告新日本テレビはもとよりのこと、その債務の保証の目的で、本件各手形に保証をし、或は裏書をしたその余の被告らも、右原因関係の事由を原告に対抗することができ、右各残元本の額と同額のほかはそれぞれ本件各手形金の支払義務がないものである。
被告らの抗弁は以上の限度で採用すべきであるがそれ以上は理由がない。
五、以上に説明したとおりであるから、原告の請求は、本件1の手形金のうち四万七、三九四円、同2の手形金のうち五四万七、七二三円、同3の手形金のうち九〇万六、三一〇円、同4の手形金のうち一二八万四、三三七円およびこれらの金員に対する右各手形のそにぞれの満期(満期が変更された手形については変更後の最後の満期)から完済までの年六分の割合による法定の利息の支払を求める限度で理由があり、<以下省略>。